越中八尾 風の盆

地平線の夕日

おはようございます

le ventです

NHKの中継で越中八尾「風の盆」を偶然目にしました 「風の盆」なんと風情のある言葉でしょうか

もう数十年もの昔富山に住むことになりました 学校では日本列島の太平洋側を表日本 日本海側を裏日本と教わりっていたころです 裏日本は感覚的にも地理的にも遠い存在でしたが気候の違いぐらいは想像できました 実際生活すると大人たちから「表日本とは昔は10年 最近ではそれでも5年」 と 社会経済の遅れをよく聞かされたものです 勿論当時の話です

経済的遅れはともかく気候の違いは明らかに感じました 富山に向かったのは4月の始め電車が長い長いトンネルを抜けると車窓に近い線路際には あちこちに雪が残っていてほんの二十分足らず前には 満開の桜だったという現実 それが裏日本の第一印象でした

職場でできた友達は同じ年齢で明るく世話好きな性格 慣れない私をあちこち案内してくれ馴染むのにずいぶん助けてくれました 初めての北陸の春は驚くほど短く 春と夏が同時にやっできたように感じました 花が一斉に咲きその隙間を縫って夏が顔を出すという感覚で しかもあっという間に秋の気配が訪れていました そういうある日「風の盆に行かせて!」土地言葉で彼女に誘われたのです

仕事が終るや否や 八尾(やつお)に向かって車を飛ばしました 運転は免許を取って間もない私が担当し 彼女はおぼつかない運転手の助手席の窓から時々顔を出して人懐こく「免許とりたてだからごめんねぇ」と声をかけながらナビに徹し助けてくれました まだ車社会への入り口の頃ですから国道などの幹線は別として 地道に入ると車の数も少なくそれでも八尾に着いた頃はすっかり夕闇に包まれていました 田んぼの畔にあちこちと車が駐車し それを咎められることもない時代だったのです 

遠くに見える町の灯りに近づくと雪洞がつるされ三々五々の人の群れで賑わっていたのですが 通りは静かでどこからかあの胡弓と三味線の音色が聞こえ そこには編笠姿の女性たちの踊る姿が見えてきました 静かな音色に乗って舞う姿は立ち姿はもちろん踊りの所作 背筋の美しさ 指先にまで伝わっているその気持 若さで飛び回っていた二人も唯ただ見入っていたことを覚えています

これが「風の盆」なのかと心に刻み 目の前を通り過ぎていく編み笠の姿の一連に黙って後ろをついて歩いた思い出があります 

TVの中継で見る町の様子は当時とは当然ながら様変わりし 格段に明るくなった町の通り 飾り付けられた多くの雪洞はなんとなく幽玄さを欠いて見えました 観客の数の多さは編み笠に触れるのではと気に病み 風の盆 が風に乗りますようにと思いながら見つめたものです 大勢の観光客に包まれた風の盆 静かな胡弓と三味線の音色は流れ 編み笠の姿は変わってなかっかったように思います あの頃とは違う華やかさとエネルギーを感じたのは時代の流れなのでしょう 裏日本も表日本もその言葉さえすでになく 長い時の経過は伝統の何かを守り何かを変えて続いていくものなのでしょう

あの後県外に嫁いだ彼女 しばらくして表日本に移り住んだ私 交流も途絶えましたがお互いそろそろ 風の盆のような風の中で出会える時も近いもの はるか昔の青春と確実に近づいている黄泉の世界とが混在するような思いの一時でした

  

 

 

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