おはようございます
le vent です
中学校に入る寸前の春休み たまたま手にした吉川英治の「宮本武蔵」の頁を開き そのまま一気に読破した記憶があります 分厚い表装の本で背表紙に「宮本武蔵」と書いてあったように思います 「少年少女 世界文学全集」を卒業すると毎月家に配達されていた月刊誌 文藝春秋と オール読物 それと 新聞が 楽しみの一つで大人への入り口でした
宮本武蔵 は不慣れな時代小説の上しかも長編 各ページは上下二段に分かれていた頁でした 小学校を卒業したばかりで良く読んだものだと思います それなりの読み方があったのでしょう 吉岡道場? 二刀流 お通さん 又八 お杉ばあさんなど今でも何となく覚えています クライマックスで「誰が知ろう百尺下の・・・」と 武蔵が小次郎の待つ 巌流島 に小舟で向かう場面での言葉 理解できずとも印象的だったのか今でもあります
唐戸市場のあたりから見る関門海峡は 武蔵が小舟を使って巌流島に渡ったという穏やかな海ではなく 深く引き込まれるような海面 底知れない深さを匂わせる海の色 絶え間なく波打って素人目にもわかる速い海流 百尺どころか深い深い海底があるような感じを受ける海でした 空と見上げる関門大橋 シュロの木の並ぶ広い空間 対岸には門司の遠景 水面が手で触れるように近い歩道 大小の船が行きかい その風景は 巌流島 に抱いていた人里離れたという想像とは かけ離れていました
巌流島に向かう連絡船の乗船時間は短いものでしたが 快晴にも関わらずその間 耳元で騒ぐ強い海風 速い流れにまともに歩けないほど揺れる船のデッキ 片手で風で逆立つ髪を抑え 片手で体をささえ いったいこの海は 武蔵が小舟で渡った時には櫓が漕げるほど穏やかであったのだろうかと ふと思ったものです
巌流島は人工の遊具など一切ない無人島で 海上での経験とは全く違う静かで穏やかな緑の島でした 手入れの行き届いた広場の隅には 小次郎のお墓と小さな祠が木陰に祀ってありました 武蔵が隗を削りながら向かったという小さな船の複製は無造作に置かれ その余りに小さく質素な船に小説ということを忘れ 陸地に近い島とはいえ海峡を渡れたものかと 疑ったものです
島全体が擁壁で包まれ 上陸したに違いないと期待していた砂浜らしき所はありませんでした
武蔵と小次郎の戦う瞬間のモニュメントは小高くなった丘の上に設置してありました 物干し竿と言われた小次郎の長い刀を振りかざす構えた姿 屈んでその太刀を受けようとする武蔵 スマホ片手に小さな丘の周りを行ったり来たりしたのですが どこからでも敗れた小次郎の顔はよく見え 反対に武蔵の表情は見えにくく 健闘した小次郎を称えてなのだろうと勝手に解釈したものです
穏やかな日差しの中ではとても血なまぐさい決闘は不似合いで 島をゆっくり散歩して帰途についたのです 連絡船の桟橋に着くと浮桟橋と陸とのスロープの陰に 二匹の小さな野生の狸が見送るように様子を伺っていました 最近島に住み着いたとの説明を聞き 恐らく連絡船の方々に守られているのだろうと 優しく嬉しい気持ちになりました きっと武蔵も小次郎も 二匹の命を見守っているかもしれないとも