おはようございます
le vent です
昭和40年代ですから かなり昔のことですが 北陸に住んだことがあります 北国の四季は初めて経験することが沢山あって 小さな発見をし知識だけでないことを体験をしました 当時は 表日本 裏日本と呼んで太平洋側と日本海側に列島を呼び分けていました
能登半島の付け根あたりの小さな古く趣のある町で 町内の一角には 路地から路地までの長い板塀を連ねた長屋もあって 興味深く塀沿いを通ったりしました 長い板塀には等間隔に同じ造りの玄関その横には坪庭がありました どこの家の庭も松などが植えてありました 塀越しに枝をのぞかせ 冬になると雪つりの幾何学的に張られた縄がもの珍しく日本情緒たっぷりでした
長屋に限らず木造の家屋は隣接し厳しい寒さをお互いに防いでいるような街並みでした 静かに低い家は 特に雪の深い冬は火事を恐れ多くの木造家屋には内湯が無く 町内には適当な距離を置いていくつもの銭湯がありました 雪の夜 蛇の目傘をさして近くの銭湯に行くと 傘に積む雪の重さ 質の違いは日によって違うことが分り 傘に積む雪は 傘を斜めにして雪を滑り落すものでしたが さらさらと勝手に滑り落ちていく雪もあって その必要のない時もありました
銭湯の女湯は町内の必須の場所で 特に町内の家の長男と結婚して新しく住民になった花嫁のデビューの場でもありました 花嫁は1か月間毎日銭湯に通い ご町内さんと顔合わせし顔を覚えてもらい 町のしきたりを教わります ただその間同じ衣服{特に和服ですが}を着て行くのはタブーで 両家の親の恥になるという風習があっったようです「最低30枚はウールの普段着が要るのよぉ」と半ば嬉しそうに話していた友の顔が浮かびます
昔はどこでも長男夫婦は親と同居が当たり前で その代わり家がありました le ventの友達は長男との結婚を強く望み 叶いました 長男の嫁は結婚式が近づくと親戚友人等を自宅に招待し嫁入り道具の一切を披露します ただ見せるのではなく箪笥のすべての引き出しの中身 主に各種着物や帯 喪服から普段着まで その他洋服を始め小物 足袋 靴下 バッグや化粧品 傘や 靴や下駄まで お座敷や玄関に次々と広げて この通り用意し準備しております と披露するのです
親の負担はいかほどかと当時年頃だったle ventでさえ この地での結婚 特に長男との結婚は到底無理なことだと思ったものです それまで暮らしてきた表日本しかも地方では特別な階層の方々の風習が この町では一般の生活の中に浸透していることを知り文化の違いを実感しました 豊かな街だったのでしょう
あの時の友達は 元気かな と時々思い出します あれから一度も訪れたことの無い北国の街です 家庭に引いてある電話も少なかった頃 せいぜい「はがき」での交流の時代でした いつの間にか途絶えてしまいました
あの町家風の長屋も銭湯も深々と降る雪をかき分けて歩くことも 今はもうなくなっているのでしょうが 懐かしいものです 良くも悪くも人と人との距離が近かったころのお話です 「それがなんだ」と言われるだけの年寄りの郷愁です