地平線の夕日

おはようございます

le vent です

小学校に入学するまで過ごさせられた祖父の家には 母屋 離れ 渡り廊下に囲まれた中庭があって 中央に楕円形の池がありました 大きさは成人男子でも飛び越えるにはまず不可能な幅があり 建物が無い側にはいろいろな樹木があったと思いますが 池の横の大きなザクロの木だけははっきり覚えています ザクロの木は枝を広げ葉が水面を覆っていました 池は何時も黒っぽい緑色でした 今思うとザクロの枝のせいだったのでしょう 池の近くに降りて行った記憶はありません

多分 鯉やフナを飼っていたのかもしれません 少なくとも周りの大人たちは関心を示していませんでした この池は廊下のどこからでも見下ろせました 水面がさざめくことはなくいつも鏡のように光って静かでした ただ雨になり雨粒が落ちる始めると水面のあちこちにちいさなリングができ そのリングがだんだん広がっていくのです リングは薄く大きく広がりお互いぶつかり合っていつの間にか形を成さなくなります  

そのうち雨脚が強くなり 水面は水が跳ね上がって水面そのものが嘘のように動きました 雨の時は 廊下に腰掛けてよく池を見ていました 今考えると子供らしくもないのですが 外で遊ぶこともなく物音しない静かな広い家の中 一人過ごすしかなかったように思います 

この池はいろいろ見せてくれました カエルの平泳ぎ 姿はまるで蜘蛛のようなミズスマシ?は 足を「く」の字に曲げて小さなリングの真ん中にへばりつき そのまま水面を移動していくのです 時には ヘビが体を「S」字のように 長い体をくねらせながら水面を滑って対岸に渡っていました 怖いもの見たさ そのあと繁みの中に吸い込まれていくヘビをずっと追いかけてみていたものです ヘビが泳ぐのをはじめてみた時の驚き 不思議な気分でした 

威嚇するような黒っぽいミズスマシの姿 ヘビの姿 口を割ったようなグロテスクなザクロの果実 どれも楽しく美しい記憶ではありません 祖父の亡くなった日も雨 周りの大人たちがいそいそとして le vent を一人残してみなで出かけて行ったのも雨の日 ほぼ毎日一人遊びの幼い頃の記憶 特に雨の日の記憶はこの池に集約されます

 

  

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